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個別論点IFRS Part24:賦課金の会計処理と固定資産税(2015/11/18)

今回は、2013年5月にIFRS解釈指針委員会から公表されたIFRIC第21号「賦課金」について検討します。

賦課金は、政府が法令によって企業に課すものですが、法人所得税や罰金・反則金などは含まれません。

日本で問題となる可能性が最も高いと思われるのは、固定資産税です。

固定資産税は、企業の所得に対して課されるものではないことから、IFRSの法人所得税の定義を満たさないので、IFRIC第21号の適用範囲になるのです。

日本の固定資産税がどうして問題となるのかを簡潔に説明すると、以下になります。

  1. 固定資産税は、毎年1月1日に保有する固定資産に対して課される。
  2. 1年分を納付する。
  3. 期中に売却しても、政府から還付されることはない。
  4. 日本基準では、1月に一括して費用と負債を計上するのではなく、月数などに応じて(時の経過とともに)計上する実務となっている。(日本の会計制度での、「資産を利用する期間に応じて費用が発生する」という基本的な考え)
  5. IFRIC第21号では、1月に負債を一括計上することを要求される。
  6. 日本基準で月次や四半期で、一定額が費用計上されてきたものが、IFRSを適用すると、第4四半期(3月決算の場合)や第1四半期(12月決算の場合)に、1年分の費用を計上せざるをえないと解釈されている。
  7. 製造業の工場などの固定資産に課される固定資産税は、製造原価として取り扱われることが多い。
  8. 製造原価が四半期ごとに大きく変動する可能性がある。

ここで重要なポイントとして押さえておきたいのは、以下です。

  1. IFRIC第21号3項では、負債の一括計上を求めてはいるが、借方項目については、取扱を規定しないことが明記されている(他のIFRS基準の取り決めに従う)。
  2. IFRSには、賦課金に関する資産や費用に関する基準はない。
  3. IFRSでは、個々の基準に明確な規定がない場合には、概念フレームワークの考えを参考にすることとなる。
  4. 概念フレームワークでの認識規準は、以下の2点。
  1. 将来の経済的便益が企業に流入する「可能性が高い」こと、かつ
  2. 信頼性をもって測定できる原価又は価値を有すること

これらのポイントを踏まえると、固定資産税は未経過分であっても、資産の「認識規準」を満たさないので、IFRIC第21号で固定資産税を負債計上した場合、借方項目として、資産勘定を用いることはできないというのが、監査法人を中心とした主張のようです。
納付した固定資産税が、政府から還付されことはないことと、仮に期中に売却して買主から固定資産税を含む金額で取引ができても、期中に売却する「可能性が高い」とは言えないからです。

ただ、ここできちんと押さえておかなければならないことは、固定資産税の支払いは、概念フレームワークの資産の「認識規準」は満たしていませんが、「定義」は満たしているということです。

概念フレームワークでの資産の「定義」は、「過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源」です。
「定義」には、「可能性が高い」といういわゆる「蓋然性」の要件はありません。
可能性が低くても、期中に売却して買主から固定資産税を含む金額で取引ができるのであれば、資産の「定義」は満たしています。
ただ、「認識規準」を満たしていないだけなのです。

この「定義」と「認識規準」の違いが、馬鹿にならないように思います。

以上の(長い)前置きから、私の個人的な意見、すなわち、賦課金を一括計上しなくて済むケース方法を3つあげます。

【賦課金を一括費用計上しない方法:その1】

まず、期中に売却する計画が取締役会などで確定していて、買主が決まっていて、買主から固定資産税を含む金額で取引ができることが確実な場合、概念フレームワークの資産の「認識規準」も満たすので、問題なく資産計上できるでしょう。

【賦課金を一括費用計上しない方法:その2】

「重要性」の考え方を適用するのです。
IFRSにも「重要性」の考え方があります。IAS第1号や概念フレームワークに記載されています。
理論的には、IFRIC第21号の適用を受けることになる場合でも、その企業にとって、重要性がない場合には、賦課金は費用計上どころか負債も計上する必要はありません。
ただし、IFRIC第21号には、重要性を判断するための明確な数値規準はないので、自社での重要性のルールを決めておく必要があるでしょう。
重要性の自社ルールがない場合には、監査法人の判断に委ねることになるでしょう。

【賦課金を一括費用計上しない方法:その3】

賦課金を負債としては計上するが、借方は「その他の包括利益(OCI)」にする。
今のところ、聞いたことのない対応なので、勇気がいります。
資産の「認識規準」を満たさない以上、資産を計上することができないのはやむをえません。
しかし、だからといって費用にしなければならないというのも、短絡的です。
最近の会計制度では、OCIという処理方法があるのです。
そして、OCIについては、概念フレームワークにその定義がないのです。
また、費用の定義は、「資産の流出若しくは減価又は負債の発生の形をとる経済的便益の減少」ということで、ここにはOCIが含まれていると解釈されます。
この方法によれば、四半期ごとの仕訳は以下になります。
例として固定資産税は12円とします。



いかがでしょうか。
一応理論的にはいけそうな気がしますが、日本の公認会計士でもなかなか納得してくれないかもしれません。
なぜなら、日本の公認会計士でも、IFRSの個別論点は理解していても、概念フレームワークについては、時間をかけてきちんと理解をしている人は少ないと思われるからです。

最後に、どうしても固定資産税を四半期に一括計上しなければならない場合には(監査法人の理解が得られない場合には)、注記で開示することで、四半期損益のゆがみを、財務報告の利用者(特に投資家)自身に修正する機会を与えることは有用だと思います。

しかし、一番頭が痛いのは、自社の経営TOPかもしれませんね。
注記にはほとんど関心がないようですから。

そういう意味では、「注記は基本財務諸表(財政状態計算書や損益計算書など)と『全く』同じ価値を持つ」という、概念フレームワークの考え方も理解しておかなければ、「IFRSを経営に役立てる」などと、言ってはいけないように思います。

<<以下ご参考>>

概念フレームワークの理解を深めたい方は、弊著をお勧めします。
http://www.knowledge-nw.co.jp/book.html

また、重要性の自社ルールをどのように作り上げたらいいのか、についてセミナーを開催しています。
http://www.knowledge-nw.co.jp/seminar_20151208.html

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中田版『IFRSの誤解』 
Part1:包括利益(2010/8/6)
Part2:連結の範囲 (2010/8/30)
Part3:棚卸資産会計(2010/9/27)
Part4:IFRS適用時期(2010/10/05)
Part5:海外子会社の機能通貨(2010/10/12)
Part6:収益認識(FOBとCIF)(2010/11/8)
Part7:初度適用と海外子会社のPL換算(2010/12/29)
Part8:IAS第16号の「一会計期間」は「一年」(2011/1/14)
Part9:海外子会社の機能通貨(その2)(2011/3/7)
Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
Part11:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある(2011/7/25)
Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
  Part13:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる(2014/2/24)   
  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


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