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個別論点IFRS Part3:IFRS適用で失われる税務メリット(2011/2/11)

IFRSを適用すると、そのままでは税務メリットを失ってしまうことがあります。
例えば以下のようなケースです。

@ 有形固定資産の耐用年数の取扱い:
IFRSでは、税法上の耐用年数表をそのまま使用することができません。
実際の利用予定年数が税法上の耐用年数表とたまたま一致していれば問題はないのですが、そのようなケースは偶然の一致です。
現在進められているIFRS対応プロジェクトでは、過去の実際の利用年数が、税法上の耐用年数表とどれだけ一致しているかを調査し、ほとんど一致していない事実が確認され始めています。
このケースで税務メリットを失うのは、税法上の耐用年数表での耐用年数より、実際の利用予定年数の方が長い場合です。
耐用年数が短い方が一会計期間での減価償却費の金額が大きくなります。
IFRSベースの減価償却費の金額が小さくなると、損金経理要件による税務上の損金は、このIFRSベースの減価償却費までしか認められません。
耐用年数表では、税務上もっと大きな金額まで認識できるのですが、財務諸表を作成する中で費用として計上していないものを、申告調整で損金の追加算入処理が許されていないからです。

A 償却方法の取扱い:
日本では税務メリットを享受するために、定率法が広く採用されています。
IFRSでは、経済的便益の費消パターンが逓減的であることを合理的に説明できないと、定額法を採用せざるをえません。
定率法は利用開始初期に減価償却費を計上し、次第に減価償却額が減っていくことになります。
したがって、定額法に比べて、利用開始初期の支払税金を低くすることができます。
定額法採用によるIFRSベースの減価償却費の金額が小さくなると、損金経理要件による税務上の損金は、このIFRSベースの減価償却費までしか認められません。

B 登録免許税や不動産取得税の取扱い:
土地や建物を取得した際に課税される登録免許税や不動産取得税については、これを取得した会計期間の費用として取り扱うことを前提として、税務上損金として取り扱うことが認められています。
IFRSではこれら有形固定資産を取得する際に負担した税金のうち、還付されない税金は、有形固定資産の取得原価に含めなければならず、全額を取得した会計期間の費用にすることができません。
したがって、税務上も損金として取り扱うことができなくなります。

C 支払利息の取扱い:
銀行借入による利息支払があったり、ファイナンス・リースのリース料支払がある場合で、かつ、「購入代金を支払い始めて利用可能になるまで」に一年近くあるいはそれ以上の期間を要する資産がある場合には、「購入代金を支払い始めて利用可能になるまで」の支払利息を、IFRSでは当該資産の取得原価に含めなければなりません。
資産の種類は有形固定資産だけでなく、開発費などの無形資産や棚卸資産も対象になります。
従来の日本の会計慣行にはない取扱いです。従来であれば何の問題もなく損金として認められる支払利息やリース料が、資産の取得原価に振り替えられると、取得した会計期間の費用にしていないので、税務上も損金として取り扱うことができなくなります。

このような例は、まだまだあります。
この状況を放置すると、当期の税務メリットが得られないだけでなく、土地の不動産取得税など、半永久的に税務メリットが受けられなくなります。

このような不都合を回避するためには、金融商品取引法で要求される連結財務諸表を作成するための財務諸表と会社法上の計算書類について、内容の違う別々の財務書類として作成するほかありません。
税務上の確定申告書に添付する決算書は、会社法上の手続きで「確定」した計算書類を前提としているからです。

いまのところ、金融商品取引法で要求される有価証券報告書に記載する単体財務諸表は、日本基準で作成することになっているので、会社法上の計算書類と同じものになるでしょう。
ただ、有価証券報告書に記載する連結財務諸表はIFRSベースで作成することを義務付けることが、金融庁の中間報告で方向づけられているので、連結財務諸表のための、親会社や子会社さらには関連会社の個別財務諸表は、IFRSベースにしなければなりません。

経理・決算の現場では、会計帳簿や試算表から、日本基準ベースの個別財務書類と、IFRSベースの個別財務諸表を作成することが、必須になると思います。
有形固定資産の減価償却費が、製品原価の一部になるような製造業などでは、固定資産システムや原価計算システムを二重化し、財務会計システムも二重化した方が、業務上の負担が減るケースも多いと思います。


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Part3:グループ会計方針(2010/11/23)
Part4:影響度調査後のプロジェクト体制 (2010/12/9)
Part5:公開草案への対応 (2011/1/7)
Part6:影響度調査の盲点 (2011/1/21)
Part7:IFRS適用時の監査対応 (2011/2/21)
Part8:2011年3月時点でのIFRS対応状況(2011/3/14)
Part9:IFRS適用時期と大震災(2011/4/27)
Part10:中国子会社の決算期ズレへの対応方法(2011/5/18)
Part11:IFRSでの勘定科目体系(2011/5/27)
Part12:グループ会計方針での重要性の判断規準(2011/6/1)
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Part14:6月30日の企業会計審議会の議論について(2011/7/14)
Part15:IFRS適用の今後の展開予測(2011/7/14)
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Part17:IFRS決算体制はいつから検討するか(2012/2/8)
  Part18:馬鹿に出来ない!?最初のIFRS財務諸表をアニュアルレポートで開示するメリット(2012/4/11)
  Part19:金融商品としての売掛金の開示(2012/4/24) 
  Part20:うちはどうするIFRS?(2012/6/19)  
  Part21:膨大な注記への対応(2012/7/31)
  Part22:定額法への減価償却方法の変更の動向(2012/8/27) 
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  Part25:監査法人へのIFRS対応報酬の支払状況(2012/11/12)  
  Part26:IFRS任意適用の動向(2013/4/2) 
  Part27:J-IFRS(日本版IFRS)のねらい(2013/6/20)  
  Part28:IFRSの任意適用を拡大させる第一弾か?(2013/6/23)   
  Part29:IFRSの任意適用拡大に向けての経団連の期待と役割(2013/9/2)    
  Part30:日本企業同士の合併とIFRS(2013/10/11) 
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  Part42:単体財務諸表へのIFRS任意適用の動き(2016/9/9)
  Part43:米国基準を適用している企業の動き(2017/3/15)
  
中田版『IFRSの誤解』 
Part1:包括利益(2010/8/6)
Part2:連結の範囲 (2010/8/30)
Part3:棚卸資産会計(2010/9/27)
Part4:IFRS適用時期(2010/10/05)
Part5:海外子会社の機能通貨(2010/10/12)
Part6:収益認識(FOBとCIF)(2010/11/8)
Part7:初度適用と海外子会社のPL換算(2010/12/29)
Part8:IAS第16号の「一会計期間」は「一年」(2011/1/14)
Part9:海外子会社の機能通貨(その2)(2011/3/7)
Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
Part11:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある(2011/7/25)
Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
  Part13:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる(2014/2/24)   
  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


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