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IFRS対応プロジェクト最前線 Part36:開示ボリュームを激減させる具体例(2015/5/14)

2015年3月20日に開催された会計基準委員会(ASBJ)の審議資料として、以下の資料がアップされています。

「審議(1)-4 開示に関する取組み(重要性-プロジェクトのアップデート)」(以下、「本資料」といいます)

本資料は、2015年3月のIASB会議のためにIASBスタッフにより作成された「実務記述書-財務諸表への重要性の適用」(案)に関するアジェンダ・ペーパーと、ASAF会議向けに作成されたスライド資料について、概要をまとめたものだということです。

IASBが2014年12月18日に「開示イニシアティブ(IAS第1号の改訂)」を公表して、重要でない情報は「開示しなくてもよい」のではなく「開示してはいけない」のだということを明確にしたことは、『IFRS対応プロジェクト最前線 Part35:注記情報の大幅削減が可能に!!(2015/2/9)』で、すでに説明しました。

IASBはこの「開示イニシアティブ(IAS第1号の改訂)」だけではなく、さらに「実務記述書」を公表して、「重要性」についての理解を適切にしていくことに工数を割いているのです。

ここで、本資料の3ページ目を利用してちょっと解説をします。

IASBは会計基準であるIFRS(IASを含む)のガイダンスとして、いくつかの文書を公表します。
それを整理すると以下の3種類があります。

(1) 適用指針(application guidance)
(2) 教育文書(education material)
(3) 実務記述書(practice statement)

「(1) 適用指針」は、強制力があり、通常のデュー・プロセスまで必要とされています。
つまり「IFRSの一部」と言えるものです。

「(2) 教育文書」は、法的拘束力がなく、(1)の適用指針よりも対象とする範囲や内容が広範で、各国の会計制度などの法体系と共存しやすいという特徴があります。

「(3) 実務記述書」は、(1)の適用指針と同様にデュー・プロセスが必要なものです。
しかし、IFRSの一部ではないので、「IFRSとしての」強制力はないものの、各国の規制当局(日本であれば金融庁)等が追加的に遵守を要求することができるものです。

本資料に添付されている資料の名称は「IFRS実務記述書――財務諸表への重要性の適用」ですので、(3)に該当します。

ということは、日本では、金融庁が追加的に要求して初めて強制力が発生すると理解できます。

金融庁が追加的要求をするかどうかはまだわかりませんが、重要なことは本資料にある「実務記述書(案)」の内容です。

内容のほとんどは「開示イニシアティブ(IAS第1号の改訂)」での改訂内容を丁寧にわかりやすく解説したものだという印象です。

その中でも「わが意を得たり!!」と感じたのは、20ページ目にある第55項の表現です。

第55項は、「重要性がない情報」という見出しの中にあります。
そして、重要性がない情報の開示で重要な情報の理解を妨げる一例として、会計方針の開示を挙げています。
企業に関連性のある基準のすべてに係る要求事項の記述を開示する企業は、どの会計方針が重要なのか、企業が判断を行使する必要があったのかを利用者が理解することを困難にするのだとしています。

このことをもう少しわかりやすく説明しましょう。

現在日本でIFRSを任意適用し、いわゆる「先行開示事例」として閲覧できる企業は30社を超えています。

これらのすべての企業に当てはまると思われるのが、「重要な会計方針」の要約にかなりの紙幅を費やしているということです。
ほとんどがIFRSの基準をコピペしている印象を持ちます。

このような情報は全く意味がないと思っていました。
なぜなら、その開示企業固有の会計方針が見つけにくいからです。

借入費用や資産除去債務を有形固定資産の取得原価に含めることは、IFRSが要求していることであって、選択の余地がなく、基準書を理解している人にとっては、全く無用の文章です。
そのような文章の中に、実は「原価モデル」ではなく、「再評価モデル」を選択しているという大事なことが記述されていても、他の文字に埋もれてしまって、見落とすリスクが大きくなるでしょう。

したがって、この第55項は、一例として、現在多くのIFRS適用企業が開示している「重要な会計方針の要約」のほとんどは開示すべきではなく、その企業固有の会計方針のみを記載すべきだと言っているのです。

実は、「開示イニシアティブ(IAS第1号の改訂)」の内容をよく見ると、「summary of significant accounting policies」の” summary of”に、ことごとく取り消し線が入れられて、削除されていることがわかります。

毎年ほとんど変わらない記載箇所だと言っても、開示の現場では、万一に備えて読み合わせをするので、この「重要な会計方針の要約」のほとんどの記載がなくなることは、開示実務においてかなりの負担減になるのではないでしょうか。
そして、投資家などの財務諸表利用者にとっても、必要なものだけが記載され、重要なことがよりキャッチアップしやすくなるでしょう。

『IFRS対応プロジェクト最前線 Part35』でご案内の通り、ちなみに、このIAS第1号の改訂内容の適用時期は、2016年1月1日以降に開始する事業年度ですが、「即時適用」が認められています。

そして、金融庁は、2014年12月18日に改訂されたのIAS第1号を「指定国際会計基準」として含めることを2015年2月17日に公表しています。

したがって、この2015年3月期で提出される有価証券報告書でIFRS開示する企業の「重要な会計方針」の記載が激減するかどうかが見ものなのです。

激減していなければ、IFRSの改訂動向をきちんと追いかけて、理解していないと言われても仕方がないでしょう。

2015年3月20日に開催された会計基準委員会(ASBJ)の審議資料としてアップされた「審議(1)-4 開示に関する取組み(重要性-プロジェクトのアップデート)」へのリンクは以下です。
ぜひダウンロードして内容をじっくり読み込んでください。
https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/minutes/20150320/20150320_index.shtml



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中田版『IFRSの誤解』 
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Part2:連結の範囲 (2010/8/30)
Part3:棚卸資産会計(2010/9/27)
Part4:IFRS適用時期(2010/10/05)
Part5:海外子会社の機能通貨(2010/10/12)
Part6:収益認識(FOBとCIF)(2010/11/8)
Part7:初度適用と海外子会社のPL換算(2010/12/29)
Part8:IAS第16号の「一会計期間」は「一年」(2011/1/14)
Part9:海外子会社の機能通貨(その2)(2011/3/7)
Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
Part11:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある(2011/7/25)
Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
  Part13:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる(2014/2/24)   
  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


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