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災害時の開示 PART8:協会会長通牒にある『阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について』(2011/4/6)

2011年3月30日、日本公認会計士協会から会長通牒平成23年第1号「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」が公表されました。

今回は、この会長通牒を解説します。

1.平成7年3月27日に日本公認会計士協会から公表された協会通牒「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」の内容を一部修正している項目

以下の表は、会長通牒に記載されている「災害の範囲」、その「会計処理」及び「科目表示」をまとめたものです。
基本的に、協会通牒「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」とほぼ同じ内容です。協会通牒「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」を確認されたい方は、このコラムの末尾にあるファイルを参照してください。



以上が、協会通牒「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」を踏襲した部分になります。
今回の会長通牒では、上記に加えて、以下の項目を追加して説明しています。

2.災害時における決算・開示実務上の留意事項

@繰延税金資産の回収可能性の判断(監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」)
 (a) 今回の災害が企業の将来収益力にどのような影響を及ぼすか(一時的か長期的かなどを含む。)
 (b) 災害発生による主要な計画要因の将来変化の可能性に留意し、
   翌期以降の事業計画又は利益計画の見直しが必要かどうか。
 (c) 明らかに合理性を欠く業績予測であると認められる場合には、
   適宜その修正を行った上で課税所得を見積もる必要があることに留意する。
 (d) 災害損失による多額の税務上の繰越欠損金等の発生等による、
   繰延税金資産に係る会社区分の見直しが必要かどうか
 (e) 例示区分Cのただし書き(非経常的な特別の原因により発生)に
   分類することが適切かどうか。

A取引先の財政状態の悪化等
取引先の財政状態が悪化し、売掛金等の営業債権(敷金や差入保証金を含む。)の貸倒れ等のリスクが高まる場合もあるため、債権の評価(担保権の評価を含む。)に関しては、留意する必要がある。

【データ収集や会計上の見積りが困難なケース】合理的な損失等の見積りを財務諸表に適切に反映した上で、データ収集や会計上の見積りの制約に関する重要な事項を注記において適切に開示する。

B保有有価証券の時価の下落
時価を把握することが極めて困難と認められる株式(非上場株式)については、可能な限り災害発生の影響を反映させた実質価額を把握し、減損の要否について検討する。

【データ収集や会計上の見積りが困難なケース】合理的な損失等の見積りを財務諸表に適切に反映した上で、データ収集や会計上の見積りの制約に関する重要な事項を注記において適切に開示する。

C固定資産の減損判定
 (a) 災害により物理的な損害を受けたもの:上記1@で説明した会計処理
 (b) それ以外の固定資産:
   将来キャッシュ・フローに災害の影響が生じる場合には、
   従来の減損判定を見直す必要性の有無について適切に検討する。
   この場合、経済的残存使用年数への影響も考慮する必要がある。

D継続企業の前提
継続企業の前提に係る疑義が発生した場合、当該注記を付すかどうかの判断をする。

3.平成23年3月11日(災害発生時)より前に決算日を迎えた企業
 今回の災害に係る影響は開示後発事象として取り扱う。
 債権、棚卸資産、固定資産及び繰延税金資産などの評価に当たって
 @決算日時点の状況を基礎として見積もり、
 A災害に係る影響が重要な場合に、開示後発事象として注記する。
  【災害に係る影響の例】
    ・災害に起因する信用リスクの増大
    ・将来キャッシュ・フローの悪化
    ・将来の課税所得の見積りの下振れリスクなど

4.内部統制監査
【災害が発生したことにより経営者の評価手続が実施できない場合の取扱い】
「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」において、やむを得ない事情による評価範囲の制約に該当する。
 @経営者:
  当該事実の及ぼす影響を把握した上で、当該範囲を除外して、
  財務報告に係る内部統制の評価結果を表明することができる。
 A監査人:
  当該内部統制報告書の記載内容及びやむを得ない事情により
  内部統制の評価ができなかった範囲の影響を判断し、内部統制報告書に対して
  内部統制監査意見を表明することになる(無限定適正意見を表明)。

   【無限定適正意見の前提条件】
    (a) 経営者による評価が、やむを得ない事情を除き、全体として適切に実施されていること
    かつ、
    (b) やむを得ない事情により、十分な評価手続を実施できなったことが
      財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼすまでには至っていないこと

     (当該事業拠点が滅失してしまった場合は、期末日現在評価対象が存在しないため、
      評価対象外になる)

5.中間財務諸表及び四半期財務諸表関係
四半期報告書における取扱いも、上記内容に準じて対応する必要がある。

6.決算スケジュールの延長
今回の災害を受け、平成23年3月13日に東北地方太平洋沖地震を特定非常災害に指定する政令が公布・施行されたことにより、
 @本来の提出期限までに金融商品取引法に係る諸提出書類の提出が
  なかった場合であっても、本年6月末までに提出すればよいこととされた。
 A会社法については、法務省が定時株主総会の開催時期についての説明資料を公表している。
  具体的対応については、各企業の法律専門家も交え検討する必要があると考えられる。

 @については、PART2:特定非常災害特別措置法(2011/3/28)を参照ください。
 Aについては、PART5:法務省「定時株主総会の開催の延期」について(2011/3/30) を参照ください。


※本コラムで対象にした、日本公認会計士協会から公表された『阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について』の全文は以下です。

1.【協会通牒(1995/3/28):阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について】
 ↑
平成7年4月1日発行のJICPAニュースレターNo.15を打ち直したものです。
原文をすべて書き起こしましたが、当時の法令との関連が注釈されている部分は割愛しています。
『企業会計小六法(中央経済社)』や『会計監査六法(日本公認会計士協会出版局)』などの法規集に収録されていないようなので、添付することにしました。
あくまで原本ではありませんので、その旨ご承知の上ご参照ください。

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災害時の開示
Part1:災害時の決算処理(2011/3/18)
Part2:特定非常災害特別措置法(2011/3/28)
Part3-1:三洋電機(適時開示−地震発生から2日後)(2011/3/29)
Part3-2:三洋電機(適時開示−地震発生から約2ヶ月)(2011/3/29)
Part3-3:三洋電機(半期報告書:後発事象)(2011/3/29)
Part3-4:三洋電機(四半期決算短信)(2011/3/29)
Part3-5:三洋電機(有価証券報告書)(2011/3/29)
Part3-6:三洋電機(招集通知)(2011/3/29)
Part4:後発事象の開示事例集(2011/3/30)
Part5:法務省「定時株主総会の開催の延期」について(2011/3/30)
Part6:有価証券報告書での開示事例集(2011/4/1)
Part7:東日本大震災に関する有報での開示事例集(2011/4/4)
Part8:協会会長通牒にある『阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について』(2011/4/6)
Part9:東日本大震災の四半期報告書での開示事例集(2011/4/13)
Part10:国税庁の「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」(2011/4/18)
Part11:国税庁の法令解釈通達「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて」と質疑応答事例(2011/4/22)
カレントトピックス
災害時の開示
Part1:災害時の決算処理(2011/3/18)
Part2:特定非常災害特別措置法(2011/3/28)
Part3-1:三洋電機(適時開示−地震発生から2日後)(2011/3/29)
Part3-2:三洋電機(適時開示−地震発生から約2ヶ月)(2011/3/29)
Part3-3:三洋電機(半期報告書:後発事象)(2011/3/29)
Part3-4:三洋電機(四半期決算短信)(2011/3/29)
Part3-5:三洋電機(有価証券報告書)(2011/3/29)
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Part4:後発事象の開示事例集(2011/3/30)
Part5:法務省「定時株主総会の開催の延期」について(2011/3/30)
Part6:有価証券報告書での開示事例集(2011/4/1)
Part7:東日本大震災に関する有報での開示事例集(2011/4/4)
Part8:協会会長通牒にある『阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について』(2011/4/6)
Part9:東日本大震災の四半期報告書での開示事例集(2011/4/13)
Part10:国税庁の「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」(2011/4/18)
Part11:国税庁の法令解釈通達「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて」と質疑応答事例(2011/4/22)
 

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Part1:HOYA(2015.03)の重要な会計方針の要約
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子会社のIFRS
Part1:組替仕訳の繰越手続き(開始仕訳)の考え方
(2014/12/11)
   
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Part1:保守主義の復活?
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(2013/2/3)
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  Part25:闇に葬られてしまった有給休暇引当金問題(2016/9/9)   
  
IFRS対応プロジェクト最前線
Part1:影響度調査での重要性(2010/10/19)
Part2:影響度調査が終わったら(2010/10/25)
Part3:グループ会計方針(2010/11/23)
Part4:影響度調査後のプロジェクト体制 (2010/12/9)
Part5:公開草案への対応 (2011/1/7)
Part6:影響度調査の盲点 (2011/1/21)
Part7:IFRS適用時の監査対応 (2011/2/21)
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Part9:IFRS適用時期と大震災(2011/4/27)
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Part12:グループ会計方針での重要性の判断規準(2011/6/1)
Part13:自見庄三郎金融担当大臣の談話に関する留意点(2011/6/27)
Part14:6月30日の企業会計審議会の議論について(2011/7/14)
Part15:IFRS適用の今後の展開予測(2011/7/14)
Part16:さまざまなグループ会計方針書(2011/8/31)
Part17:IFRS決算体制はいつから検討するか(2012/2/8)
  Part18:馬鹿に出来ない!?最初のIFRS財務諸表をアニュアルレポートで開示するメリット(2012/4/11)
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  Part41:丸紅の初度適用(短信からの初度適用)(2015/9/8)   
  Part42:単体財務諸表へのIFRS任意適用の動き(2016/9/9)
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中田版『IFRSの誤解』 
Part1:包括利益(2010/8/6)
Part2:連結の範囲 (2010/8/30)
Part3:棚卸資産会計(2010/9/27)
Part4:IFRS適用時期(2010/10/05)
Part5:海外子会社の機能通貨(2010/10/12)
Part6:収益認識(FOBとCIF)(2010/11/8)
Part7:初度適用と海外子会社のPL換算(2010/12/29)
Part8:IAS第16号の「一会計期間」は「一年」(2011/1/14)
Part9:海外子会社の機能通貨(その2)(2011/3/7)
Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
Part11:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある(2011/7/25)
Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
  Part13:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる(2014/2/24)   
  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


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