有限会社ナレッジネットワーク 公認会計士 中田清穂のサイト ホーム 有限会社ナレッジネットワーク 公認会計士 中田 清穂
ホーム > 週刊中田コーナー >IFRS対応プロジェクト最前線 Part16:さまざまなグループ会計方針書(2011/8/31)
IFRS対応プロジェクト最前線 Part16:さまざまなグループ会計方針書(2011/8/31)

IFRS対応を早くから進めてきた企業では、すでにグループ会計方針の策定を終えて、影響を受ける業務プロセスやシステムの変更を洗い出し、実行計画を策定する段階になっています。

ここで一言で「グループ会計方針書」といってもさまざまな内容のものが作成されています。
「グループ会計方針書」の内容に変化を与えるのが、IFRSの基準書との関係です。
特に日本企業の社内文書なので、IASBのIFRS基準書ではなく、ASBJが監訳している日本語の基準書の影響を受けます。

影響を受けるのは以下の項目です。

 1. 章立て
 2. 原文の取込みかた
 3. 仕訳例や具体例

1. 章立て

「グループ会計方針書」の章立てをどのようにするのかを決める際に、以下の選択があります。

(1) IFRS基準書と同じ順番で「グループ会計方針書」の章立てを構成する。
この場合には、「グループ会計方針書」の章立てで以下のような順番になります。
@ IFRS第1号「初度適用」
A IFRS第2号「株式報酬」
B IFRS第3号「企業結合」
   ・
   ・
   ・
(2) IFRSとは異なる順番で「グループ会計方針書」の章立てとする。
この場合には、総論と各論に部を分けて、各論は財務諸表の表示順にします。
例えば、以下のような順番です。
第1部 総論
 @  「グループ会計方針書」の目的
 A  「グループ会計方針書」の適用範囲
     ・
     ・
     ・
第2部 各論
 @ 金融商品(現金)
 A 棚卸資産
 B 有形固定資産
     ・
     ・
     ・

(1)の場合には、IFRSの基準書と同じなので、章立てを考える必要がありませんし、「グループ会計方針書」とIFRSの基準書の関連づけ(リファレンス)が取りやすいというメリットがあります。
(2)の場合には、財務諸表の表示順なので、経理担当者にとって理解しやすく、使いやすいというメリットがあります。

2. 原文の取込みかた

「グループ会計方針書」の本文にどこまでIFRSの基準書の文章を取り込むかは、実に悩ましい問題です。
自社グループの会計方針を、IFRSの原則に準拠した形にするならば、IFRSの基準書の規定文を、そのまま取り込めば良いのですが、IFRSの基準書の文章はとても難解で、決算実務ではとても使える表現内容ではないのです。

ここで、実際に「グループ会計方針書」を策定しているプロジェクトの例を見ると、以下のように類別できます。

(1) IFRSの基準書の規定文をそのまま取り込む
このパターンは、「グループ会計方針書」としての表現方法について悩むことからは解放されますが、500から600ページにもなる文書になりながら、内容はほとんどIFRSの基準書に書いてあるものとほとんど同じになります。
自社グループにとって必要ないものを削除しただけといったものになります。
「グループ会計方針書」を作成したという達成感は得られるものの、決算実務にはそのままではほとんど役に立たないものになってしまいます。
実は、現在IFRS対応プロジェクトで、監査法人やコンサルタント会社が作成する「グループ会計方針書」はこのパターンです。
膨大なコストが発生するのに、決算実務にはほとんど使えないために、企業サイドで作り直さなければならない状況が頻発しているので、十分な注意が必要です。
監査法人やコンサルタント会社に「グループ会計方針書」の作成を依頼する場合には、数ページを作成させて、「理解しやすいか」「自社の決算担当者にわかる書き方になっているか」という点をチェックして、満足できるレベルであれば、同じレベルで「グループ会計方針書」の全ページを依頼するという、2段階方式が良いでしょう。
なお、このパターンは、IFRSの基準書の大幅な改訂だけでなく、年次改訂という、毎年行われるマイナーな変更についても、きちんとキャッチアップしなければ、有効な「グループ会計方針書」にはならなくなり、毎年のメンテナンスについても工数がかかるので、注意が必要です。
したがって、この方法は、「労多くして益少なし」と言えるパターンです。

(2) IFRSの基準書の規定文は網羅するものの、表現をわかりやすくする
このパターンは(1)の変形です。(1)のパターンが、「わかりにくい」という致命的な欠点を持っているので、そのポイントを補う方法です。
しかし、「わかりやすい」文章にするには、経理・決算の知識や経験とは、全く異なる「文章表能力」が必要とされます。
また、わかりやすい文章にする前提として、IFRSの規定文の本質を十分に理解する必要があります。
最もニーズのあるパターンとは思われますが、「文章表現能力」と「IFRSの理解力」を備えた人物がいないと実現性がありません。
IFRSを熟知している担当者やアドバイザー、及び、文章表現力のある担当者やアドバイザーが、作成に参画するか、レビューを依頼するなどの補完的な手続きが有効でしょう。

(3) IFRSの基準書の規定文はほとんど取り込まない
この方法は、(1)(2)とは全く異なるものです。
IFRSの基準書の内容は、毎年市販されるので、その内容と同じものを社内文書として書き起こすのはナンセンスだという考え方です。
グループ各社は、毎年IFRSの基準書を購入することを前提とし、「グループ会計方針書」は、IFRSの基準書には記載されていない内容のみを表現するのです。

したがって、この場合には以下の項目を「グループ会計方針書」に記載します。
@ IFRSの基準のパラグラフ(項)の見出し
IFRSの基準の規定文は、パラグラフ(項)が分かれていますが、ほとんどについて見出しがないので、中身の文章を読まないと何を規定しているパラグラフ(項)なのかがわからないのです。
グループ各社が毎年IFRSの基準書を購入しても、それだけで理解することはなかなか期待できません。したがって、見出しによってIFRSの理解を進める効果が得られるでしょう。

A IFRSの基準の中で選択適用が認められている場合に、自社グループが選択した処理や方法
IFRSの規定文そのものは記載しませんが、選択適用が認められている場合には、どちらを選択したのかを、「グループ会計方針書」に明記します。

B IFRSの基準の文章について解釈に幅がある場合に、自社グループで採用した解釈
IFRSの規定文をそのまま読んだだけでは、十分に正確な理解が得られない場合には、その理解を促す文章を記載します。

C 自社グループの企業活動特有の取引や契約がある場合に、IFRSの原則に準拠した範囲で採用した会計処理や会計手続き
いわゆる「自社グループ固有の取引」に関する取扱いです。

3. 仕訳例や具体例

IFRSにはほとんど仕訳例や具体的な処理方法が記載されていません。
そこで、「グループ会計方針書」には、自社グループでの経理・決算手続きの実務対応のための仕訳例や具体例を記載することは、非常に有効と言えるでしょう。
しかし、実際のIFRS対応プロジェクトでは、このような仕訳例や具体例について、「グループ会計方針書」に明記するパターンと、「グループ会計方針書」には明記しないで、別途「グループ会計マニュアル」とか「グループ会計方針のガイダンス」といった別文書として作成されるケースが多いようです。


以上、IFRS対応プロジェクトで作成されている「グループ会計方針書」について、3つの観点で整理しましたが、実際には、これら3項目の組み合わせで対応されているので、いろいろな様式の「グループ会計方針書」が作成されています。

「グループ会計方針書」を作成する上で注意すべきポイントは以下です。
(a) 誰が利用するのか(責任者レベルか担当者レベルか)
(b) メンテナンスの頻度(IFRSは年次改訂があるので、膨大なページ数だとメンテナンスができなくなる)
(c) 仕訳例や具体例は、どのレベルの文書にするか(方針書かマニュアルやガイダンスか)


週刊中田コーナー掲載内容へのご質問は、ナレッジネットワークお問い合わせまでどうぞ!
 
カレントトピックス
災害時の開示
Part1:災害時の決算処理(2011/3/18)
Part2:特定非常災害特別措置法(2011/3/28)
Part3-1:三洋電機(適時開示−地震発生から2日後)(2011/3/29)
Part3-2:三洋電機(適時開示−地震発生から約2ヶ月)(2011/3/29)
Part3-3:三洋電機(半期報告書:後発事象)(2011/3/29)
Part3-4:三洋電機(四半期決算短信)(2011/3/29)
Part3-5:三洋電機(有価証券報告書)(2011/3/29)
Part3-6:三洋電機(招集通知)(2011/3/29)
Part4:後発事象の開示事例集(2011/3/30)
Part5:法務省「定時株主総会の開催の延期」について(2011/3/30)
Part6:有価証券報告書での開示事例集(2011/4/1)
Part7:東日本大震災に関する有報での開示事例集(2011/4/4)
Part8:協会会長通牒にある『阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について』(2011/4/6)
Part9:東日本大震災の四半期報告書での開示事例集(2011/4/13)
Part10:国税庁の「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」(2011/4/18)
Part11:国税庁の法令解釈通達「東日本大震災に関する諸費用の法人税の取扱いについて」と質疑応答事例(2011/4/22)
 

IFRS開示事例研究
Part1:HOYA(2015.03)の重要な会計方針の要約
(2015/6/9) 
  Part2:日本取引所(2015.03)の現金同等物の開示
(2015/7/28)
  Part3:改定されたIAS第1号「財務諸表の表示」(開示イニシアチブ)の適用状況調査(2015/7/28) 
  Part4:定率法の採用を表現している企業の開示(2016/3/8)
  Part5:金融庁「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」の「留意事項」と「重要性の方針の開示例」(2016/4/7)   
 
子会社のIFRS
Part1:組替仕訳の繰越手続き(開始仕訳)の考え方
(2014/12/11)
   
IASB概念フレームワークと日本版IFRS
Part1:保守主義の復活?
(2013/10/22)
  Part2:発生可能性(蓋然性)の取り扱い(2013/11/1) 
  Part3:「純利益とOCI及びリサイクリング」の取り扱い(2013/12/4)  
   
日本企業をダメにする会計制度
Part1:開発費会計
(2013/2/3)
  Part2:減損会計
(2013/2/11)  
  Part3:のれん
(2013/2/21)   
  Part4:リース会計
(2013/4/1)
   
個別論点IFRS
Part1:金型(2011/1/28)
Part2:広告宣伝費、販促費及び通信販売のカタログ(2011/2/4)
Part3:IFRS適用で失われる税務メリット(2011/2/11)
Part4:支払利息の原価参入(2011/2/26)
Part5:有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応(2011/4/18)
Part6:投資不動産とリース会計(2011/6/10)
Part7:棚卸資産会計での製造間接費の配賦における「正常生産能力」(2011/6/19)
Part8:外貨建取引の換算と個別会計システム(2011/9/7)
Part9:減損の兆候(2011/9/26)
Part10:経済的耐用年数のあの手この手(2011/10/13)
Part11:現在の決算手続きに影響を与えかねない経済的耐用年数の決定(2011/10/29)
Part12:有給休暇引当金を計上しないケース(2011/11/9)
Part13:自己株式を取得するための付随費用(2011/12/15)
Part14:有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応(その2)(2011/12/26)
Part15:退職給付会計と年金数理人(2012/1/23)
Part16:製品原価計算項目の会計基準差異の税務上の取扱い(2012/3/13)
  Part17:棚卸資産の評価とAging(長期滞留)(2012/5/23)
  Part18:資本的支出後の減価償却資産の償却方法等(2012/12/24) 
  Part19:開発費の償却費は原価参入するべきか?(2013/4/3)  
  Part20:有給休暇引当金の対応事例(2014/1/24)  
  Part21:改定後IAS第19号の退職給付の開示事例(2014/4/3)   
  Part22:有給休暇引当金開示の実態と分析(2014/9/9)    
  Part23:開発費資産計上の実態と分析(2014/11/10)   
  Part24:賦課金の会計処理と固定資産税(2015/11/18)  
  Part25:闇に葬られてしまった有給休暇引当金問題(2016/9/9)   
  
IFRS対応プロジェクト最前線
Part1:影響度調査での重要性(2010/10/19)
Part2:影響度調査が終わったら(2010/10/25)
Part3:グループ会計方針(2010/11/23)
Part4:影響度調査後のプロジェクト体制 (2010/12/9)
Part5:公開草案への対応 (2011/1/7)
Part6:影響度調査の盲点 (2011/1/21)
Part7:IFRS適用時の監査対応 (2011/2/21)
Part8:2011年3月時点でのIFRS対応状況(2011/3/14)
Part9:IFRS適用時期と大震災(2011/4/27)
Part10:中国子会社の決算期ズレへの対応方法(2011/5/18)
Part11:IFRSでの勘定科目体系(2011/5/27)
Part12:グループ会計方針での重要性の判断規準(2011/6/1)
Part13:自見庄三郎金融担当大臣の談話に関する留意点(2011/6/27)
Part14:6月30日の企業会計審議会の議論について(2011/7/14)
Part15:IFRS適用の今後の展開予測(2011/7/14)
Part16:さまざまなグループ会計方針書(2011/8/31)
Part17:IFRS決算体制はいつから検討するか(2012/2/8)
  Part18:馬鹿に出来ない!?最初のIFRS財務諸表をアニュアルレポートで開示するメリット(2012/4/11)
  Part19:金融商品としての売掛金の開示(2012/4/24) 
  Part20:うちはどうするIFRS?(2012/6/19)  
  Part21:膨大な注記への対応(2012/7/31)
  Part22:定額法への減価償却方法の変更の動向(2012/8/27) 
  Part23:減価償却方法変更の記載事例(2012/9/16)  
  Part24:耐用年数変更の記載事例(2012/10/1)   
  Part25:監査法人へのIFRS対応報酬の支払状況(2012/11/12)  
  Part26:IFRS任意適用の動向(2013/4/2) 
  Part27:J-IFRS(日本版IFRS)のねらい(2013/6/20)  
  Part28:IFRSの任意適用を拡大させる第一弾か?(2013/6/23)   
  Part29:IFRSの任意適用拡大に向けての経団連の期待と役割(2013/9/2)    
  Part30:日本企業同士の合併とIFRS(2013/10/11) 
  Part31:新指数『JPX日経インデックス400』はIFRS任意適用拡大に影響があるか(2013/12/24)  
  Part32:自民党・日本経済再生本部の「日本再生ビジョン」におけるIFRSの記載(2014/6/5)
  Part33:骨太の方針とIFRS(2014/6/27)  
  Part34:任意適用積み上げの動向と強制適用の可能性(2015/1/13)     
  Part35:注記情報の大幅削減が可能に!!(2015/2/9)  
  Part36:開示ボリュームを激減させる具体例(2015/5/14)   
  Part37:連結決算短信での「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の記載状況(2015/6/9)   
  Part38:IFRS適用の対応コスト(2015/6/9)     
  Part39:4つの会計基準収斂の方向性(2015/6/9)  
  Part40:IFRS財団は日本の現状をどう見ているか(2015/7/28)   
  Part41:丸紅の初度適用(短信からの初度適用)(2015/9/8)   
  Part42:単体財務諸表へのIFRS任意適用の動き(2016/9/9)
  Part43:米国基準を適用している企業の動き(2017/3/15)
  
中田版『IFRSの誤解』 
Part1:包括利益(2010/8/6)
Part2:連結の範囲 (2010/8/30)
Part3:棚卸資産会計(2010/9/27)
Part4:IFRS適用時期(2010/10/05)
Part5:海外子会社の機能通貨(2010/10/12)
Part6:収益認識(FOBとCIF)(2010/11/8)
Part7:初度適用と海外子会社のPL換算(2010/12/29)
Part8:IAS第16号の「一会計期間」は「一年」(2011/1/14)
Part9:海外子会社の機能通貨(その2)(2011/3/7)
Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
Part11:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある(2011/7/25)
Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
  Part13:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる(2014/2/24)   
  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


このページの先頭へ
Copyright(C) 2010 Knowledge Network.Ltd All Rights Reserved.