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日本企業をダメにする会計制度 Part2:減損会計(2013/2/11)

今回は、日本の減損会計基準が、経営判断に悪影響を及ぼす可能性についてお話します。

減損会計基準について、日本とIFRSとの相違点で重要なポイントとしては、『個別論点IFRS Part9:減損の兆候(2011/9/26)』で説明しています。

その要点は、
日本基準は、「過去の結果の推移で兆候の有無を評価しようとしている」
のに対して、
IFRSは、「経営者の予測とのかい離」で兆候の有無を評価しようとしている」
という点でした。

日本基準での「過去の結果の推移で兆候の有無を評価しようとしている」ということの具体的な内容は、



ということでした。
つまり、「連続赤字」という「過去の結果」が出ないと、「減損の兆候」があるかどうかの確認をしないでよいということです。
「減損の兆候」というのは、会計用語ですが、これを一般的な言葉に置き換えると、「事業が失敗するシグナル」と言えるでしょう。

別に、経営判断として、事業が失敗しそうなことに気づくきっかけは、会計手続きである「減損会計基準」に従う必要はありません。
しかし、日本企業は往々にして経理部門から「2期連続赤字です。減損の兆候があります。」と言われない限り、事業の撤退や縮小を検討し始めない傾向があるようです。

例えば、平成24 年8 月30 日に住友金属工業株式会社(以下、住友金属工業)により発表された『固定資産の減損損失の計上及び業績予想の修正に関するお知らせ』を題材にして考えてみましょう。
平成24 年8 月30 日に住友金属工業から発表されたプレス・リリースは以下です。



また、このプレス・リリースに関連して、日本経済新聞では以下の記事で住友金属工業の経理部長のコメントを紹介しています。



つまり、住友金属工業では、住金鋼鉄和歌山という子会社が、「3期連続赤字」になったから、「減損の兆候」に該当し、減損処理の必要性を判断した結果、約1,200億円の損失を計上することにしたのです。

ところで、住友金属工業の平成24年3月期の有価証券報告書を見ると、【設備の新設、除却等の計画】という項目には、以下の記載があります。



これによれば、減損処理の原因となった住金鋼鉄和歌山という子会社には、平成20年4月から、総額1,150億円の投資計画が予定されていて、平成24年下半期に設備投資が完了するという計画があり、平成24年3月末時点では、設備投資が続けられていたということです。

この総額1,150億円の投資計画の製造設備が、今回減損の対象となった機械装置と同じものかどうかは、開示されている情報だけではわかりません。
しかし、最終的に減損処理で計上された損失約1,200億円と、設備計画の1,150億円が極めて近い金額であることから、同じ機械・設備のように感じられます。

もし、同じものであったとしたら、どうでしょうか?

「3期連続赤字」になる前に、「事業の失敗」の恐れを探知しようとしていれば、もっと早い時期に新規設備投資を中断し、減損の損失を、1,200億円よりも激減させることができたのではないでしょうか。

具体的にいえば、例えば、数年前に「東アジアの鋼板価格」に連動する「スラブ価格」が著しく下落して、その時の予算を達成できない状況になったタイミングで、「事業が失敗するリスク」を検知できたのではないか、そしてさらなる追加投資をストップするという経営判断ができたのではないか、ということです。

IFRSの「減損の兆候」は、連続赤字の発生という「過去の結果」ではなく、「経営者の予測とのかい離」なので、経営判断をすべきタイミングと会計処理(減損)をするタイミングのかい離が、比較的短いと言えるでしょう。

逆に、会計処理(減損)の結果を経営判断に利用すると、日本基準では、経営判断が遅れる恐れが非常に高いと言えるでしょう。

「経営判断の遅れ」は、時には致命傷になり、どのような大企業でも経営が悪化し、潰れたり、大幅な事業の縮小の追い込まれかねないのです。

つまり、日本の減損会計基準の結果を経営判断に利用すると、日本企業はダメになる可能性が少なくないということです。

巨額の減損損失計上後に経営が悪化し、他社に買収されたり倒産したりする最近の日本企業の急激な変化の背景には、問題を多く抱える日本の制度会計上の数値で経営判断をしていることがあるのかもしれません。


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Part4:IFRS適用時期(2010/10/05)
Part5:海外子会社の機能通貨(2010/10/12)
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Part9:海外子会社の機能通貨(その2)(2011/3/7)
Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
Part11:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある(2011/7/25)
Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
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  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


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