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IASB概念フレームワークと日本版IFRS Part1:保守主義の復活?(2013/10/22)

2010 年以前の「概念フレームワーク」の第37 項には、「慎重性」という言葉を用いた以下の記述がありました。

慎重性は、不確実性の状況下で要求される見積りにあたって必要とされる判断の行使に際して、資産又は収益の過大表示及び負債又は費用の過小表示とならないように、ある程度の用心深さを要求するものである。しかし、慎重性の行使によって、例えば、秘密積立金若しくは過大な引当金の計上、資産若しくは収益の故意の過小表示又は負債若しくは費用の故意の過大表示となることは、財務諸表が中立性を失い、したがって信頼性の特性を有しなくなるため、容認されるものではない。

この記述をもって、「IASBの概念フレームワークにも『保守主義』の考え方があるのだ」と解釈する人も多かったと思います。

最初の段落では、いわゆる『粉飾決算』を戒めています。
二つ目の段落では、粉飾決算にならないようにする考えが行き過ぎると、逆に収益が過少になったり、費用が過大になったりするので、それも戒めているのです。

しかし、「過少表示」とか「過大表示」という表現が、「過度の保守的手続き」を戒めているととらえて、「過度でなければ『適切な慎重な手続き』と言える」という解釈の余地が残っていたようです。

しかし、IASBでは、「過度の保守的手続き」を戒めているのではなく、「保守的手続きそのもの」を戒めているのです。
もっとも重要なことは、どちらにも偏ることがない「中立」であることなのです。

そこで、2010年に概念フレームワークを改訂する際に、この「慎重性」の記述は削除されました。
「中立性」の考え方さえ記述していればよいのであって、「慎重性」の記述があることで、かえって「保守主義」を認める解釈につながるので不適切だ、というのが、「慎重性」の記述を削除した根拠です。

しかし、『慎重性』の記述の『復活』を強く望む人たちがいることも、IASBはきちんと把握し、無視してはいません。

このため、今回の「財務報告に関する概念フレームワーク」の見直しに関するディスカッションペーパーでは、「質問22」で、IASBは2010年の改訂で削除した「慎重性」の取り扱いを根本的に再検討するつもりはない(復活させない)が、このアプローチに同意するか、同意しないならば理由を説明するように要求しています。

「『慎重性』の記述の『復活』を強く望む人たち」の中に、日本があります。

その根拠は、2011年11月30日にASBJがオールジャパンの意見として取りまとめたとされる「意見募集『アジェンダ協議2011』に対するコメント」(以下、アジェンダ協議2011へのコメント)の3ページ目の以下の記述です。

なお、我が国の市場関係者からは、健全性の観点から、慎重性の考え方を、概念フレームワークの中に改めて組み込むべきとの指摘がある。

「慎重性」の考え方の記述を復活させれば、「保守的な会計手続き」を概念フレームワークで認める基礎ができるという考えです。

私は、「慎重性」の文言が復活したところで、「保守主義」を概念フレームワークで認めさせたことにはならないと考えていますが、ASBJのアジェンダ協議2011へのコメントでは、そうは考えていないようです。

もし、概念フレームワークで「保守主義」が認められれば、どのような影響があるでしょう。それは、さまざまな会計処理において、保守的な手続きを認めやすくなるという影響になって表れてきます。

例えば、売却が困難な開発費を資産として計上することは総資産の金額を膨らませてしまうから、保守的な観点から、資産計上はしないで発生した期に全額費用計上するべきだという現在の日本の会計基準と同じ取扱いにできるでしょう。
また、同じような理由で、買収時に発生したのれんについて、償却しないで何年も同じ金額で資産として計上するより、保守的な観点から、毎期償却して資産の金額を減額するべきだという日本の会計基準と同じ取扱いにできるでしょう。

まさしく、日本版IFRSでピュアIFRSを修正する対象候補となっている項目に重要な影響があるのです。

「保守主義」を認めるかどうかは、「会計基準に係る基本的な考え方」に関わる問題です。

本年6月20日に金融庁から公表された「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」の7ページ目に記載されている「IFRSの個別基準をエンドースメントする際の判断基準」の一つが、「会計基準に係る基本的な考え方」です。

つまり、日本版IFRSを作成する際に、「会計基準に係る基本的な考え方」が異なる項目は、削除または修正対象になりやすいということです。

そして、「保守主義」の取り扱いの違いは、まさしく「会計基準に係る基本的な考え方」の違いといえるでしょう。

今後、「保守主義」に焦点を当てて、今回のIASB概念フレームワーク見直しの動きと、日本版IFRS設定の動きをみることは、それぞれの理解を深める上で、非常に重要なポイントになると思います。


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Part3:グループ会計方針(2010/11/23)
Part4:影響度調査後のプロジェクト体制 (2010/12/9)
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Part6:影響度調査の盲点 (2011/1/21)
Part7:IFRS適用時の監査対応 (2011/2/21)
Part8:2011年3月時点でのIFRS対応状況(2011/3/14)
Part9:IFRS適用時期と大震災(2011/4/27)
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中田版『IFRSの誤解』 
Part1:包括利益(2010/8/6)
Part2:連結の範囲 (2010/8/30)
Part3:棚卸資産会計(2010/9/27)
Part4:IFRS適用時期(2010/10/05)
Part5:海外子会社の機能通貨(2010/10/12)
Part6:収益認識(FOBとCIF)(2010/11/8)
Part7:初度適用と海外子会社のPL換算(2010/12/29)
Part8:IAS第16号の「一会計期間」は「一年」(2011/1/14)
Part9:海外子会社の機能通貨(その2)(2011/3/7)
Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
Part11:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある(2011/7/25)
Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
  Part13:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる(2014/2/24)   
  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


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