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IFRS対応プロジェクト最前線 Part20:うちはどうするIFRS?(2012/6/19)

先日、IFRSプロジェクトでのプロジェクト・オーナー(以下、PO)との会話です。

中田:現在御社では、日本でIFRSが強制適用されることを前提にプロジェクトを進めていますが、もし金融庁がもっと遅い時期に強制適用することを決定した場合には、IFRS適用時期を変更するお考えはありますか?

PO:中長期計画のタイミング、経営情報をIFRSベースにする時期及び業績予想をIFRSにするタイミングなどを総合的に検討して決めたスケジュールであり、関連する部署や子会社、特にシステム対応が会計システムにとどまらず、影響範囲が広いこともあって、リスケは考えていませんよ。

中田:もし、金融庁が強制適用ではなく、任意適用のままでいくことを決定した場合はどうですか?

PO:そんなことあり得るんですか?

中田:最近の動きを見ていると十分に考えられるんですよ。
最近の動きとして私が最も注目したのは、金融庁のサイトにアップされている、自見前金融担当相の最後の閣議後記者会見で、『任意適用の拡大をしっかり進めていくことが会計基準の国際的ルール作りに、より一層積極的に貢献していく方針』だと発言されていることです。

PO:任意適用なら、うちはどうするかわからなくなるなー。

中田:ただ、金融庁の決定はどうあれ、同業他社の動向は無視できないんですよね?

PO:それはその通り。

中田:確か御社の業界では、米国基準で開示している企業もあり、またすでにIFRSの適用を決定しているところもありますよね。

PO:そうなんですよ。

中田:そういうことなら、御社がIFRSを適用しないことは、絶対にないとはいえないまでも、可能性は相当程度低いという理解でよいでしょうか。

PO:確かにその通りです。

中田:これから、いよいよシステム対応の範囲を確定して、並行決算を業務的にどう乗り切るかについて、子会社も巻き込んでいくので、このスケジュールが大幅に変更されるかどうか、その可能性を確認しておきたかったので、とりあえず安心いたしました。

この会話の中で私が引用した金融庁のサイトは以下です。
http://www.fsa.go.jp/common/conference/minister/2012a/20120604-1.html

この自見前金融担当相の言葉で私が注目したのは、『任意適用の拡大をしっかり進めていく』というくだりです。

何か違和感を感じませんか?

『任意適用』は、企業の自発的な意思で『適用が進んでいく』ものです。
なので、『任意適用』を『進めていく』というのはしっくりきません。
『進めていく』必要があれば『強制適用』にすればいいはずです。

言葉尻にとらわれている感もありますが、ここで興味深い報告書が、6月14日に金融庁の以下のサイトにアップされています。
http://www.fsa.go.jp/common/about/research/20120614.html
これは、日本の経済社会に対するIFRSの影響について、金融庁がオックスフォード大学に調査研究を委託したもので、

  「オックスフォード・レポート『日本の経済社会に対するIFRSの影響に関する調査研究』」

というものです。

この報告書の結論は、
「強制適用は不適切であり、任意適用を前提にするものの、何らかの方法で、適用企業を拡大し、日本が国際的会計基準への発言力を維持または高める」
というものです。

さきの自見前大臣の発言とかなり符合している印象があります。

任意適用の企業がほんの一部にとどまると、「日本が国際的会計基準への発言力」という懸念があるようです。
これは、IASBのハンス・フーガホースト議長(以下IASB議長)の発言があるからだと思います。

例えば、IASB議長は、『週刊経営財務3056号』でのインタビューで、以下のような発言をしています。

  • 「IFRS適用国」の具体的な定義はない。」
  • 全ての上場企業にIFRSを要求する必要はない。
  • たとえば、会社数で計算したカバー率が10%程度であったとしても、それが、時価総額の80%をカバーするのであれば、それは、十分に市場をカバーしていると言ってよい。
  • ただし、ASBJのクオリティが高いという理屈だけで整理はできない。
  • 5社しか任意適用していない国の意見と、何千社も強制適用している国の意見では、後者を取らざるを得ない。
  • 強制適用の国は、自国の裁量権を犠牲にしてIASBに委ねてくれているので、その責任を果たす必要もある。
これらの発言からすると、IASBへの発言力を高めるという観点からは、強制適用が最も効果が高いでしょう。
しかし、先のオックスフォード・レポートにもあるように、強制適用でなくても、外交や政治力などを総合的に駆使すれば、十分に発言力を発揮できる可能性はあります。
しかし、数社あるいは数十社しか適用していない状況で、いろいろな対応をするよりは、できるだけ適用対象が広範囲に及んでいる状況の方が、交渉をする上でやりやすくなることも事実でしょう。

そこで、「任意適用を拡大させる」という、一見違和感のある言葉が発せられるのだと思います。

あとは、どのように「拡大させる」かがポイントになります。

先のオックスフォード・レポート(P171)では、「任意適用を増やす何らかの政策的な工夫」として、以下の提案をしています。

例えば、「東証US-GAAP & IFRS セクション」のような区分を作り、その「セクションに参加する会社には政策的に何らかの恩典を与える代わりに、US-GAAP 或いはIFRS は強制適用される」というような案も考えられる。こうすることによって、国内の企業でUS-GAAP 或いはIFRS の適用によってメリットを享受できると考える企業の自発的任意適用が促進され、外国企業にも日本での公開を促すことが可能であろう。また、国際政治的には日本はIFRS の強制アドプションを行っているとの言説にも資するものである。

この「政策的な恩典」がとても興味深いですね。
税務上の恩典や財務報告負担の軽減などでしょうか。
税率の軽減や損金経理要件の撤廃、あるいは四半期報告の免除などであれば、参加意欲も高まるかもしれません。
実際、このような具体的な方策を企業会計審議会では議論していただきたいものです。

いずれにしても、任意適用が促進されると、「うちの会社は関係ない」と思っている企業でも、だんだん無関心ではいられなくなるのではないかと思います。

なぜなら、冒頭の会話にあるように、「同業他社」が任意適用をし始めると、日本企業特有の行動特性である「業界横並び」により、任意適用が予想より早く広がる可能性があるからです。
私は、欧米にはほとんどみられない、この「業界横並び」が、思わぬ展開を招くのではないかと考えています。

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IFRS対応プロジェクト最前線
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Part3:グループ会計方針(2010/11/23)
Part4:影響度調査後のプロジェクト体制 (2010/12/9)
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Part9:IFRS適用時期と大震災(2011/4/27)
Part10:中国子会社の決算期ズレへの対応方法(2011/5/18)
Part11:IFRSでの勘定科目体系(2011/5/27)
Part12:グループ会計方針での重要性の判断規準(2011/6/1)
Part13:自見庄三郎金融担当大臣の談話に関する留意点(2011/6/27)
Part14:6月30日の企業会計審議会の議論について(2011/7/14)
Part15:IFRS適用の今後の展開予測(2011/7/14)
Part16:さまざまなグループ会計方針書(2011/8/31)
Part17:IFRS決算体制はいつから検討するか(2012/2/8)
  Part18:馬鹿に出来ない!?最初のIFRS財務諸表をアニュアルレポートで開示するメリット(2012/4/11)
  Part19:金融商品としての売掛金の開示(2012/4/24) 
  Part20:うちはどうするIFRS?(2012/6/19)  
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  Part25:監査法人へのIFRS対応報酬の支払状況(2012/11/12)  
  Part26:IFRS任意適用の動向(2013/4/2) 
  Part27:J-IFRS(日本版IFRS)のねらい(2013/6/20)  
  Part28:IFRSの任意適用を拡大させる第一弾か?(2013/6/23)   
  Part29:IFRSの任意適用拡大に向けての経団連の期待と役割(2013/9/2)    
  Part30:日本企業同士の合併とIFRS(2013/10/11) 
  Part31:新指数『JPX日経インデックス400』はIFRS任意適用拡大に影響があるか(2013/12/24)  
  Part32:自民党・日本経済再生本部の「日本再生ビジョン」におけるIFRSの記載(2014/6/5)
  Part33:骨太の方針とIFRS(2014/6/27)  
  Part34:任意適用積み上げの動向と強制適用の可能性(2015/1/13)     
  Part35:注記情報の大幅削減が可能に!!(2015/2/9)  
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  Part38:IFRS適用の対応コスト(2015/6/9)     
  Part39:4つの会計基準収斂の方向性(2015/6/9)  
  Part40:IFRS財団は日本の現状をどう見ているか(2015/7/28)   
  Part41:丸紅の初度適用(短信からの初度適用)(2015/9/8)   
  Part42:単体財務諸表へのIFRS任意適用の動き(2016/9/9)
  Part43:米国基準を適用している企業の動き(2017/3/15)
  
中田版『IFRSの誤解』 
Part1:包括利益(2010/8/6)
Part2:連結の範囲 (2010/8/30)
Part3:棚卸資産会計(2010/9/27)
Part4:IFRS適用時期(2010/10/05)
Part5:海外子会社の機能通貨(2010/10/12)
Part6:収益認識(FOBとCIF)(2010/11/8)
Part7:初度適用と海外子会社のPL換算(2010/12/29)
Part8:IAS第16号の「一会計期間」は「一年」(2011/1/14)
Part9:海外子会社の機能通貨(その2)(2011/3/7)
Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
Part11:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある(2011/7/25)
Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
  Part13:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる(2014/2/24)   
  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


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