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IFRS対応プロジェクト最前線 Part9:IFRS適用時期と大震災(2011/4/27)

東日本大震災により、被災された企業では、3月決算であれば今まさに決算作業の真っ最中と思います。
今回の決算では、税務や連結手続きでも注意しなければならないことも多いので、いつもよりも負担は増しているものと思います。

このような状況の中で、最近のIFRS対応プロジェクトの現場では、「日本におけるIFRSの適用時期が、後送りされるのではないか」という意見が多く聞かれるようになりました。

皆さんご存知のように、金融庁は2009年6月の中間報告で、IFRSを日本の上場企業に適用するか否か、2012年に決定し、準備期間を考慮すると2015年か2016年に適用を開始することを想定していることを公表しました。
東日本大震災以降、金融庁は、この中間報告でのロードマップについて、全く触れていません。軌道修正をするのかしないのか、沈黙し続けています。

他方、IASBのIFRS改訂プロジェクトは、多くの項目について、当初予定から大幅な遅れが発生しており、一部項目については2011年中の最終化が間に合わないのではないかと、憂慮されている状況です。

さらに、最近では、アメリカのSECの高官や会計学者から、IFRSへのアドプションに否定的な意見が目立つようになってきています。

このような推移の中では、「日本におけるIFRSの適用時期が、後送りされるのではないか」、あるいは、「日本では結局IFRSは強制適用が見送られるのではないか」という意見が多くなることは、自然であり、無理もないことだと思います。

しかし、ここで私は冷静に検討する必要があると考えています。

日本経済が大震災の影響を受けて深刻な状況にあるのに、IFRS対応をする余裕はないし、そんな余裕があるなら、業績回復のために活用するべきだという意見は、まともな意見です。
確かに、今回の大震災が日本経済に与える影響は、これまでにはない、想像を超えたレベルだと思います。
東北・関東地方に限らず、日本全体に影響のある災害です。

しかし、私はこのような状況だからこそ、短絡的にIFRSへのアドプションを否定してはいけないと思うのです。

その理由は、そもそもIFRSへのアドプションは、日本の資本市場に世界中の投資を呼び込むことにあるからです。
これから日本経済は、一部企業の努力のレベルを超えて、国家レベルで復興しなければなりません。
復興のためには、資金が必要です。
しかし、大震災前から日本の財政赤字は深刻化しており、日本国債の格付けが引き下げられたほどです。つまり、日本国政府にはお金がないのです。

民間企業においても、大震災の影響で、深刻な打撃を受けており、復興のための潤沢な資金があるとは言えないでしょう。

そうなると、海外からの投資を呼び込むことをきちんと考えることが、従来よりも増して重要になってきていると思います。
そして、多くの海外投資家は、日本には復興する地力があると予想しているようです。

したがって、被災地や被災企業が頑張るだけではなく、少なくとも日本経済をリードする上場企業が、ここで少し踏ん張って、IFRSへの適用を進め、日本の資本市場を活性化させる力の一部になるように進んでいくことが、オールジャパン体制を作り上げることにもなるのではないかと思います。
私が望む、日本復興のシナリオは以下のようなイメージです。
  1. 上場企業に対して、一斉に全面適用するのではなく、被災していない、しかも大規模企業から、中間報告で示されたスケジュール通りにIFRSを適用する。
  2. 日本がIFRSを適用する方向性であることを海外投資家に示し、海外投資家を安心させる。
  3. 日本に復興する地力があると予想している海外投資家が、日本企業への投資を促進できるように、投資家にとって意思決定に役立つ財務報告とは何かをきちんと考えて、横並びとか最低限の開示ではない、内容のある開示を目指す。
  4. これにより、海外投資家からの買い越しを呼び、日本の証券市場の時価総額が上昇し、上場企業の直接資本市場からの資金調達を有利に実施できるようにする。
  5. 被災企業も、返済が必要な金融機関からの借り入れではなく、直接金融による資金調達で、健全な復興を目指す。
「IFRSへの対応は、手間がかかるから敬遠したい」
一つひとつの企業が、また、一人ひとりの決算担当者が、このような考え方では、政府依存型の復興しかできません。

復興への支援活動は、何も義援金やボランティアだけではないと思います。

自分たち一人ひとりができることは、間接的支援も含めれば、まだまだあると思います。
資本市場を健全にするのは、証券取引所や金融庁ではなく、その資本市場で資金調達する企業であり、その資本市場に投資する投資家なのです。

EUが、経済復興をする際にも、IFRS全面適用が重要な役割を持っていました。
韓国が、通貨危機から復興する際にも、IFRSへのアドプションが必須条件でした。

経済の復興と会計基準の高度化は深く結びついているのです。
それは健全な資本市場が、健全なお金を供給してくれるからです。

大震災を、IFRSの適用を遅らせたりする理由にすることは、日本経済を復興する方向とは、真逆のことだと思うのです。

私の結論は、「東日本大震災が原因でIFRS適用のスケジュールが遅れることはない」というものです。

風評に惑わされず、ぜひご自分の考えや意見を持つようにしていただきたいと思います。
私の考えが、その一助になることを願っています。



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Part2:連結の範囲 (2010/8/30)
Part3:棚卸資産会計(2010/9/27)
Part4:IFRS適用時期(2010/10/05)
Part5:海外子会社の機能通貨(2010/10/12)
Part6:収益認識(FOBとCIF)(2010/11/8)
Part7:初度適用と海外子会社のPL換算(2010/12/29)
Part8:IAS第16号の「一会計期間」は「一年」(2011/1/14)
Part9:海外子会社の機能通貨(その2)(2011/3/7)
Part10:子会社の会計方針の統一(2011/3/28)
Part11:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある(2011/7/25)
Part12:IFRSは投資家にとっても役に立たない(2011/8/1)
  Part13:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる(2014/2/24)   
  Part14:開示義務の明文規定がある場合には、すべて開示しなければならない(2014/5/9) 
 
勝手に解説『山田辰己理事のIASB会議レポート』
Part1:連結子会社の開示
 (2010/8/17)
Part2:概念フレームワーク
 (2010/8/23)
Part3:アメリカの動向(2011/8/23)
 
『グループ法人税制が与える連結決算への影響』
Part1:固定資産未実現に係る税効果の会計手続き(譲渡損益調整資産の取扱い)(2010/9/7)
Part2:連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き
(2010/9/13)
Part3:中小特例の取扱い(2010/9/21)
 

『やさしく深掘り IFRSの概念フレームワーク』
『やさしく深掘り IFRSの有形固定資産』
『わかった気になるIFRS』
『連結経営管理の実務』
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』


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